エンブリオロジストと呼ばれる技師がいる。体外受精に用いる受精卵の培養などをする人のことだ。自身も体外受精を経験したライターの須藤みかさん(44)は、このほど小学館ノンフィクション大賞を受賞した著作『エンブリオロジスト』(小学館)で、その実態を追った。不妊治療を通して見えた家族や命の“今”とは――。
須藤さんは2005年末から07年夏まで、二つの病院で不妊治療を受けた。体外受精にも挑んだが、失敗。それが取材のきっかけになった。
「疑問だらけでした」
自分の卵子を扱ったのがどんな人たちなのか、分かりやすい資料は見つからなかった。「その人たちが一生懸命やってくれたのだと確認したかった。そうすれば治療を終えられる、と思いました」
二十数人に取材をした。直径0.1ミリの卵子を、体温と同じ37度の環境で培養作業している現場にも足を運んだ。
エンブリオロジストの中には「卵のお母さんのような気持ちで培養しています」と話す人もいて、「私の卵も、きちんと扱ってもらえたんだろう」と感じられた。
他方で、あいまいな部分の多い世界だとも思えた。
エンブリオロジストには主に、生理学的検査などをするための国家資格である臨床検査技師の資格を持つ人たちと、動物の体外受精について農学部などで学んだことを生かして働く人たちとがいた。ただ、エンブリオロジストに特化した国家資格は存在せず、国は求められる技能水準なども定めていなかった。
規則といえそうなものとしては、「『高い倫理観を持つ技術者がふさわしい』などとする日本産科婦人科学会の『会告』があるだけ」。卵子の管理は事実上、施設まかせだった。「生まれる子の56人に1人が体外受精児という時代。国は生殖を助ける医療制度を整備するべきだ」
受精卵をどう扱うかは、生命とは何かを考えるきっかけでもあった。須藤さん自身は治療を終えたあと自然妊娠で子を授かったが、現在の日本では10人に1人が不妊治療を受けているとも言われる。
多くの患者たちは、受診する病院を「妊娠率」で選んでいた。患者のなかには、凍結した受精卵を転院で放棄する人もいたという。
須藤さんは「それでいいのか」と考える。「治療が一般化するなか、妊娠率という確率的な考え方が広まり、卵は妊娠のための道具でしかなくなっている現状が見られる」
卵を大切に扱うエンブリオロジストの姿を通して、須藤さんは「受精卵は命の素」との考えを強めた。「尊いものを生み出す治療なのだ、という感覚が希薄になってはいないか」と指摘する。
「今は『婚活』問題が注目されているけれど、晩婚化がますます進めば、やがて社会は生殖補助医療の問題に突き当たるはずだ。自分だったらどういう価値観をもって治療を受けるか、考えてほしい」
| — | asahi.com(朝日新聞社):「不妊治療と命」現場で考える 受精卵扱う培養士ルポ - ひと・流行・話題 - BOOK (via kml) (via hayami) (via iiithurboiii) (via nakano) |








